『こわれゆく世界の中で』(Breaking and entering) / ジュリエット・ビノシュ

監督 :
アンソニー・ミンゲラ
特に目立つ人たち :
ジュード・ロウ
ジュリエット・ビノシュ
ロビン・ライト・ペン
ラフィ・ガヴロン
おれが観たあらすじ :
人間のあがきが味わい深く綴られてる。

 地味に、この映画って、なんとなく詩かな。


『こわれゆく世界の中で』観賞履歴 & 感想のまとめ。

  1. 第1回目観賞 : 沈黙の表情が素晴らしい。

 ん~……なんだかねぇ~……
 物語の内容は見ればわかるし、そこ書いたらこれから観る楽しみってのがなくなっちまうからいいとして、総合的な感想としては、ありがちかなといったところ。

 すべてがハッピーエンドっていうハッピーエンドじゃなくて、かといってバッドエンドでもないところが、酸いも甘い交ぜこんだ大人な印象。特にこれといった盛り上がりもなく、盛り下がることもない。ず~っともっぱら両手間隔な調子でそれぞれに表現しようとする愛情っていうのが描かれてる。
 多少盛り上がったといえば、まあ、ベッドシーンぐらいでしょうか?

 でも、それこそが結婚というか、大人というか、イメージ的な表現でいえば成熟した愛情というものなのかなとも感じれる。
 痛恨の一撃ではないけど、じわじわと利いてくるような愛情というか、そういった人間としての葛藤とか苦悩とか、男として、女として、それぞれのグレーな部分が多いのをうまく表現してるかなとも思う。
 なんだ?
 たかだか1時間とか2時間ぐらいじゃ表現しきれないっていうのを、うまくおさめた感じか?

 ラスト。
 ラストはその一歩手前だったんだろうし、その後はエピローグみたいなもんかなと思った。
 必要ないかなとも思うけど、あると、よりいっそう味わい深くなったんじゃないか?
 んまあ、最終的には、“ なにがこわれてってたの? ” っていう中途半端な疑問しか残らなかった。

 みんながみんな、なんだかんだで、そこにしがみついてたとしか思えない。
 やめようとしたり、なにかにつけてその理由を欲しがったり、切り離そうとして、ダメだったら言い訳と口実を作って、嘘ついて、叶わぬのなら諦めて、わかってるけど踏み出せなくて、そのための駆け引きがあり、ただただ愛を求めた。

 奥深さはあったかもしれない。潔さもあった。
 でもやっぱり、おれの脳みその範囲を超えなかったのが、ちょっと残念だったかなと。

 こわれゆくっていうよりは、揺れゆくって感じだな。壊したくないものを壊そうとしてるだけで、多少の子供じみた感情も混ざってたと思う。
 でも、そこに大人の愛情っていうものが見えた。同じく、子供の愛情も。

 壊したくて壊したくて、壊したくてもとことんまでは壊しきれない弱さ。
 それでも壊そうと自分に言い聞かせようとする強さ。
 でも、そのどちらもできない愛。
 自分が求めている愛情と、それがまわりに与える愛情とのはざまで、だれもが揺れ動いてた。
 男と女でまた全然違うということも明確に描かれてる。
 とはいえ、多少、やっぱ男目線に傾いてるかなという印象も拭いきれない。

 きっとこれまた “ 真実の愛 ” というのがテーマなんだろうな。
 おれとしては、“ 日常 ” にあるそれぞれの愛情を描いた作品としか映らなかった。
 特に斬新な展開もなかったし、どんなに昂ぶって怒鳴り合ってるシーンでさえ、終始物静かな心象だった。
 でも、そういう場面、場面場面がそれなんだよなっていうのも見えてくる。いや、そういうものを見せたかったのかな?

 そう、そういうのがもう斬新じゃないのね。そういう展開というか、“ それがなにより大事なんだよ ” っていうのはもう使い古されてて、なんら目新しくもなんともないの。
 ズバッと言っちゃうと、なんか昼ドラの長編っていうぐらいしか思えない。
 いや待て……それはさすがに辛すぎるか。
 一級品の昼ドラ……だな。

 ん~……なんでこう、おれってのは、人が萎えるようなことしか書けないんだ?
 こんなこと書いて、だれかがこの映画を観たいって思うか?
 もうちょっと考えてみよう……


 いや、もっと素直に、もっと感じたままを書いてみよう。

 人。

 人間。

 女。

 男。

 大人。

 子供。

 だれもがどこかのなにかに加わることを望んでる。
 それを遠まわしに、遠まわりしながら、少しずつ少しずつでも近づいていこう、寄り添い合っていこうとする繊細な心情が画面から伝わってきたな。
 うらやましがる顔。妬む顔。企んでる顔。安心してる顔。情熱的な顔。求めてる顔。受け入れるとき、受け入れたときの顔。やめる顔。始める顔。なにかを伝えようとしてる顔。
 男として、女として、子供として、人としての表情がすごくよかったと思う。

 で、それはすべて、この映画では “ 沈黙 ” にあった。
 そこがすごく印象深くて、味わい深い。そして、すごく現実的。
 人がなにかを伝えようとしたり、なにかを感じるときっていうのは、言葉で理解するもんだけど、そのほとんどが沈黙なんだと思う。
 去りゆく人の背中を見送る人の表情だったり、だれかを抱きしめているときの表情だったり。
 実はなにか、もしかしたらそのことについて考えてるときっていうのが、それに対しての気持ちを一番表現するのかもしれない。


 …… “ かもしれない ” ってなんだよ。感想だぞ?
 観た映画の感想なのに、“ かもしれないって ” なんだよ。考えながら観た映画の感想をまた考えてどうすんだよ。
 まいいや、おれ。

 この映画に関しては、キャストも特に重要ではないような気がするので、やめとく。
 あ、いや、あったな。豆知識だけど。

自分のためのちょっと豆知識

  • ジュード・ロウのワイフ役リヴ、すなわちロビン・ライト・ペンは、ショーン・ペンのワイフ。

 魅力は、キャストよりも、シナリオの味わい、そして情景の見せ方にあり。
 沈黙があらゆることを語る。

 そして、その一番は、ジュリエット・ビノシュ。アミラ役の人。ミルサドの母。
 この人の沈黙はなんなんだ?
 眼力か? 眼力鋭いか?
 いやいや、そんなに目の力はあると思えない。
 そう、表情……すっげぇやわらかいの。
 吸い込まれるんじゃなくて、吸い込む感じ。
 力とか迫力じゃなくて、ジュリエット・ビノシュ、この人の沈黙にある表情は、奥の深さ。
 苦悩や葛藤を知ってる人の表情。果てしのない優しさを感じる。
 人形じゃ~ない。人間の、人間としての美しさだ。

 そういやなんか、すっげぇジュリア・ロバーツと似たようなお顔立ちだけど、ちげぇ。全然ちげぇ。
 外ににじみ出てるものが全然違う。
 ジュリア・ロバーツは華がある。人気とか可愛さとか知名度とかも手伝ってか、やっぱ派手だ。それでいて、どっか、なんか、なんとなぁ~く、どことなぁ~く、そこはかとなく、脆さ。
 ジュリエット・ビノシュは、地味だけど、地に足がついてるっつーか、なんか、すっげぇデケぇ。
 ジュリア・ロバーツが雨なら、ジュリエット・ビノシュは、雨上がりの水たまりだ。

 って、あ、そういえばこの人、なぁ~んか観たことあんなぁ~と思ってたら、『存在の耐えられない軽さ』に出てたっけな。
 たぶんこれと似たようなテーマ掲げてんだろうけど、あれこそよくわかんねぇ。

 この映画はジュード・ロウじゃねぇ。
 ジュリエット・ビノシュだ。

 ということはこれ、どういうことか?
 撮影か?
 いやいや、違う。
 シナリオはたぶん男よりだけど、その情景とか人の表情とかは、女目線だと思う。
 鋭い場面でも、どこかやわらかさが演出されてる。
 おっとー、ここは斬新な点じゃねぇか?
 映像美じゃなく、演出美。

 この映画 ──── いや、愛というやつは、その名のもとに、沈黙があらゆることを語っている。
 この映画の見どころも、やっぱりそのシーンに漂う “ 沈黙の持つ表情 ” にあり。
 そして、“ 愛 ” を知る。


タイトル :
『 Breaking and Entering 』
監督 :
アンソニー・ミンゲラ (Anthony Minghella)
製作 :
シドニー・ポラック (Sydney Pollack)
アンソニー・ミンゲラ (Anthony Minghella)
ティモシー・ブリックネル (Timothy Bricknell)
製作総指揮 :
ボブ・ワインスタイン (Bob Weinstein)
ハーヴェイ・ワインスタイン (Harvey Weinstein)
コリン・ヴェインズ (Colin Vaines)
脚本 :
アンソニー・ミンゲラ (Anthony Minghella)
撮影 :
ブノワ・ドゥローム (Benoît Delhomme)
衣装デザイン :
ナタリー・ウォード (Natalie Ward)
編集 :
リサ・ガニング (Lisa Gunning)
音楽 :
ガブリエル・ヤレド (Gabriel Yared)
出演 :
ジュード・ロウ (Jude Law) / ウィル (Will Francis)
ジュリエット・ビノシュ (Juliette Binoche) / アミラ (Amira Simic)
ロビン・ライト・ペン (Robin Wright Penn) / リヴ (Liv)
マーティン・フリーマン (Martin Freeman) / サンディ (Sandy Hoffman)
レイ・ウィンストン (Ray Winstone) / ブルーノ刑事 (Bruno Fella)
ヴェラ・ファーミガ (Vera Farmiga) / オアーナ (Oana)
ラフィ・ガヴロン (Rafi Gavron) / ミロ [ ミルサド ] (Mirza 'Miro' Simic)
ポピー・ロジャース (Poppy Rogers) / ビー (Bea)
マーク・ベントン (Mark Benton)
ジュリエット・スティーヴンソン (Juliet Stevenson) / ローズマリー (Rosemary McCloud)
キャロライン・チケジー (Caroline Chikezie) / エリカ (Erika)
ラド・ラザール (Rad Lazar) / ドゥラガン (Dragan)

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